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2010年1月

ゲストハウスNo Problem

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 ゲストハウスが好きだ。海外旅行をする時に十分な金がある人は、普段の仕事が忙しいはずだから旅に出た時ぐらい大名旅行をするがよろしい。慌ただしいスケジュールの上にわざわざ劣悪な条件の宿を選ぶことはない。

 こちらは時間はあるが、予算は少ないので一泊数百円から高くても二千円程度の宿ばかりを選んで泊まることになる。おせじにも快適とは言えず、部屋に一歩足を踏み入れた瞬間からツッコミを入れて回ることになる。

 おれとてこれまで幾多のボロ宿を渡り歩いてきたバックパッカーの端くれ、Guest House“No Problem”という宿の名前を頭から信用したわけではなかった。そもそも“No Problem"と書かれた看板が外れかかって風に揺れている。

 レセプションにいる若い男が言う。

「部屋を見てから決めるかい?」

「無論だ。」

 鍵を受け取って部屋へ向かった。他の部屋の窓が観音開きになっていてそれが目当ての部屋への通路をふさいでいる。おれは黙って窓を閉めて通り過ぎる。実際に開けた時のことを全く考えずに設計された扉、ゲストハウスにはつきものだ。

 目当ての部屋の扉を開けるとき視野の隅でキラリと光るものがあった。よく見ると入り口の天井近くにフックがあり、鍵がぶら下がっている。その鍵を部屋の鍵に合わせるとキー溝が綺麗に重なった。合鍵が部屋のすぐ外に掛かっていては鍵の意味がないが、部屋の掃除などする時にそうしておいた方がスタッフが楽なのだろう。おれは合鍵を胸ポケットにしまって部屋に入った。

 部屋に入ってすぐ微妙な違和感を体全体で感じた。コインを床に立てて置くと、果たしてかなりの勢いで部屋の奥へ向けて転がっていき、壁に当たって止まった。はい、床が斜め、と。これまた全然珍しくない。

 ぐるりと見回すと壁から何らかのケーブルの切れ端が飛び出ているが見なかったことにした。害さえなければ余計なものがついていても構わない。中学生が電気工作で作ったような不細工な配電盤からむき出しの配線が天井のライトやファンに伸びている。
 念のためスイッチを全部点けてみる。天井にある軍用機のプロペラのようなファンが勢いよく回転する。今ベッドの上に立ち上がったら首が飛ぶな、と思う。

 ベッドに寝てみると、長年使い込まれたマットレスはお椀状に中心部が凹んでいる。天井は、何が悲しくてこんな柄を選んだのかと思うほど悪魔的に趣味の悪い紫の花柄だった。
・・・横を向いて寝れば関係ない。おれも大人になったものだ。

 部屋よりも大事なのはバスルームだ。大抵のスタッフは鬼の首でも取ったように「ホットシャワーだ」と言うが、どこの宿でも使っている “JOVEN2000”という給湯器は性能が悪いのでお湯はぬるく、勢いは日本のシャワーの半分もない。案の定それだった。・・・水シャワーと比べると大分ましだ。自分をなだめるのもうまくなった。

 洗面台で水を出すと足が思いっきり濡れた。排水口の下にパイプがないので、流した水は全て足下に落ちてバスルームの排水口を伝って外へ出る仕組みなのだ。歯を磨く時は吐き出した汚水が足に掛からないように注意しなければ。

 おれは部屋のチェックをあらかた終えると、レセプションに戻った。髪型を直していた男は大した興味もなさそうに訊いた。

「泊まるかい?」

「ああ」

 長時間の移動などで疲れていると、どんな部屋でもいいから早く決めてしまいたくなる。

 何でそんな使い勝手の悪いゲストハウスが好きなのかと言うと、造ったヤツのいい加減さとか、ろくに確認もしないでOK出したオーナーなんかに共感できるからだ。これだけ暑ければ几帳面な仕事なんか出来ないよなと思う。不細工な部屋でも他と大差はないので泊まるヤツは泊まる。

 心身を病むまで、よりよいサービス・商品を作ることに血道を上げている日本人が滑稽に見える。ゲストハウスのスタッフが帝国ホテルに研修しに来たなら、その日のうちに逃げ出すだろう。あそこでは客が飲み残したジュースさえ傷むまで保管されてたりするのだ。

 高級ホテルは快適だが、つまらない。ゲストハウスは不快だが笑える。でもそろそろ中級ホテルぐらいにレベルアップしたい。次回こそは・・・。

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