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2010年6月

営業社員「なるほどですねー」

  予定調和的なものごとに気持ちよさを感じることがある。例えば、テレビドラマの水戸黄門のクライマックスで悪代官に印籠が突きつけられる時に感じるカタル シス。もう120%印籠が出るのがわかりきっている。それどころか分単位でいつそのシーンになるのかも見当がついている。それでも、いや、それだからこ そ、いざその瞬間が来ると嬉しい。
「来るぞ・・・、来るぞ・・・、・・・やあ、来た来た」
Photo_9    お年寄りたちもきっと、その「決して裏切られることのない約束」の快感に酔っている。もうハラハラドキドキの大どんでん返しなど、全然嬉しくない年頃だ。なにしろ下手すると本当に命取りになるほど心臓はナイーブになっている。

 ところで、電話でよく話す人はたいていお決まりのフレーズを持っている。勤め先の営業のSさんが電話口で今日も言っている。
「・・・なるほど・・・なるほど・・・」
それを小耳に挟みながらぼくは、「来るぞ、来るぞ」と思う。
「・・・なるほどですねー」
そら来た。いつもそうなのだ。決まって三回目に「なるほどですねー」と来る。そのテンポ、抑揚、タイミングがもう匠の域に達していて、普通に聞い たら「お前、ほんとに人の話きいてんのか?」と突っ込みたくなるような軽々しいセリフが少しも嫌味に聞こえない。むしろ実に小気味いいのだ。いつもSさん が電話口で「なるほど」と言い始めると、ニヤニヤしてしまう。多分このSさん、「なるほど」と口にしている時は大して「なるほど」とは思っていない。相手 の意見にただひたすら寄り添い、同調する。ジンベイザメの腹の下にぴったりくっついているコバンザメのように。そんな話の聞き方が必要なシチュエーション があるのだろう。
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こないだ引っ越して、隣の家に挨拶に行った。インターホンを鳴らすと、おばちゃんが出てくるなり言った。
「ごめんなさい、うちは大家じゃないんですよ」
誰もそんなことは言ってない。
「はっ?・・・あの、隣に引っ越してきたヒダリマキと申します。一応その、挨拶に伺ったんですが・・・」
「あのね、ほんといつもいつも言うんですけど、大家じゃないんです。だから排水の不具合とか、網戸付いてないとか、ブレーカーのアンペアがとか言われてもほんと困るのよ」
「・・・いやいや、ぼくの方こそ、ほんとに何の悪意も邪念も下心もなくですね、ただこれからお隣で暮らさせて頂くにあたって、『ふつつか者ですが、よろしくお願いします』と、ただ良かれと思って・・・」
ああ、なんかちょっとキテるのかな、この人と思っていると。
「ただ、たまたま苗字が同じだけなのよ」
そう言われて、ドアの外に顔を出し、表札を見ると、確かに「小山内」と書いてある。それ早く言え。引っ越してきた物件は小山内荘というのだ。
「・・・なるほど、確かに珍しい苗字ですもんねー。」
「そうなのよ、でもほんと・・・」
「大家じゃないんですもんねー」
言葉を継いでやり、菓子折を差し出す。
これでお互いに誤解は解け、ようやく事態は収束に向かうかに見えた。おばさんは共感されて嬉しいのか、急に笑顔になり、
「うちのおじいちゃん甘いものに目がなくって。ちょっと、おじいちゃーん」
すると、2分ぐらいして、廊下の奥から秒速10センチぐらいの亀歩きでおじいちゃん登場。もうかみ合わない会話にうんざりしていたぼくは目を閉じて天を仰いだ。
この上ボスキャラの相手もするのか・・・。
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「ああ、あたしぁ甘いもんが好きでね。」
勝ち名乗りを受けた力士のように手刀で菓子折を二、三回切るようにしてから手にするおじいちゃん。
「それは良かったです。じゃ、みなさんで召し上がってください」
と面倒なのでさっさと帰ろうとすると、
「なにせ、若い頃は甘いもんって、さつまいもや果物ぐらいで・・・バナナなんてな、今でこそ、ほれ・・・
口元をふがふがさせ、小刻みに震えながら頷くおじいちゃん。
・・・昔はそら、病気で入院でもしないと食えないようなモンで・・・」
甘いものを鍵にして呼び起こされた遠い日の記憶がそのまま、いつ終わるとも知れぬ昔語りに発展しそうになった時、ぼくの口は勝手に言葉を発した。

「なるほどですねー」

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情の深すぎる男「好きになりすぎて」

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【好きになりすぎて…ポストに尿かけた男逮捕】

一方的に好意を寄せた女性(27)の家の玄関ポスト内に何度も尿をかけたとして、千葉・野田市のトラック運転手・尾嶋友樹容疑者(22)が器物損壊の疑いで逮捕された。2人に面識はなく、女性はストーカー被害の相談をしていたという。

 警察の調べに対し、尾嶋容疑者は「好きになりすぎてやってしまった。8月から約10回やった」と話している。
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本当に人を好きになったことのない奴にはわからないだろうな、何度もポストに尿をかけたくなる気持ちは・・・・って、どういう“好き”やねん!!

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石川遼「ゾーンに入る」

 5月上旬、石川遼が世界最小ストロークを更新する58というスコアで優勝したあと、「ゾーンに入りました」と語った。それ以来、ずっと「ゾーンに入る」という言葉遣いはいかがなものかと気になっている。

 わかりやすく言うと、「ゾーンに入ってる」状態というのは、「適度な緊張感を保ちながら自身のパフォーマンスを最大限に発揮できるコンディション」のこと。
 トワイライトゾーン、デッドゾーン、レッドゾーンなどと世の中には色んなゾーンがあるので、ただ「ゾーンに入った」と言われても、「え、どのゾーン?」と戸惑ってしまう。

 遼くんは「ゾーンに入る状態をあまり知っている人はいないと思うけど・・・」と言うのだが、何もゾーンに入るのは一流のアスリートだけじゃないわけで、アーティストや僧侶、ことによったらパートのおばちゃんとか子供だってたまには出入りしてるかもしれない。

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ゾーンに入れた石川遼
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ゾーンに入れなかった石川遼

 世間の注目を集める遼くんが「ゾーンに入る」と言ったことによって、ゾーンという言葉がこれまでよりカジュアルに使われそうで心配だ。

 もともと常人を超えた資質・能力の持ち主を指して使われていたカリスマという言葉が「カリスマ美容師」、「カリスマ店員」などと日常的に使われるようなって、言葉の格を落としたように、ゾーンもあまり簡単に使わないほうがいいような気がする。例えばこんな使われ方をしそうだから・・・

 「部長ー、部長ー」
 「あ、今声かけちゃダメだって」
 「なんで?」
 「部長、今ゾーン入ってっから」

 「ごめんごめん、さっき電話くれたよね」
 「お取り込み中だった?」
 「うん、ちょっとゾーン入ってた」(←風呂入ってた、みたいなニュアンスで)

みたいなことになると、本当に深いゾーンに入ってる人との区別がつかなくなるから。

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