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熱海の踊り子

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「熱海に行かないか」
と友達に誘われたのは、少し肌寒くなり始めた11月のことだった。
「なんで熱海なの?」
「さびれたところがいい」
 当時失恋したばかりだった友人は、つげ義春の漫画を読んでいたりして、寂しさに思う存分ひたりたかったようだ。
 結局定職にもつかずヒマをもてあましていた野郎ども五人で熱海に行くことになった。
 電車がトンネルを抜けると、そこは熱海だった。
 宿の近くにうらさびれた風俗店「みなと」を見つけた我々一行は、呼び込みの男に促されるまま座敷へ通された。しばらく待つと、60~70代とおぼしき老婆が茶を入れに来た。
 

 「もうちぃと、お待ち下さい。」 

老婆は廊下にひざまずき、恭しく頭を垂れると、襖を閉めた。

 やや間があり、再度件の老婆がやってきた。心なしか皺だらけの頬に赤みが差しているのをぼくは見逃さなかった。

 彼女は我々の目の前に立ち、歳の割に鋭い眼光で全員と目を合わせた。そして太い息を吐いてから、やおら着物を脱ぎ出した。

「おまえかいっ!」 一同申し合わせかのように抜群のタイミングでツッコミを入れる。

 そして老婆は生まれたままの姿を惜しげもなく披露し、紫の風呂敷包みから吹き矢を取り出した。さらにぼくが秘かに持ち込んで飲んでいた発泡酒の缶を目ざとく見つけて取り上げた。

「す、すいません」

老婆は黙ってうなずくと、その缶を部屋の端に置き、自分はじりじりと反対側へ後ずさった。ぼくは胸騒ぎがして鼓動が早くなった。もちろん興奮したためではない。

 老婆は吹き矢を局部に挟むと両手両足で畳みに踏ん張り仰向けになった。つまり、プロレスラーがやるブリッジのできそこないのような格好だ。老婆は眉間に皺を寄せてフンと鼻息を吐き出して局部から矢を放った。結果、見事缶に命中した。

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「おぉー」 一同そろってどよめく。

老婆は我々の反応に気を良くしたのか、続けざまに三、四発矢を吹き、いずれも命中させた。

 次に、釣り糸を巻いたリンゴを一個取り出して、これも局部に挟み、糸の端をぼくに持たせると、思いきり引っ張れという。老婆はまたブリッジした。ぼくはあまり気乗りせずためらっていた。すると、老婆はぼくを冷たい目で見て、無言で顎をしゃくった。「早くしろ」ということだろう。なんでこんなところでこんなことをせなあかんのかと思いながらも、観念して目を閉じ、力任せに引っ張った。リンゴは哀れ真っ二つ。リンゴだって死に様は選びたかろうに・・・。

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 老婆は粛々と芸をこなしていく。

 最後に書道具一式を取り出すと、巻物状になった半紙の端をパンとはたくようにした。半紙がくるくるくるーっと我々の方に転がり、ぼくの膝に当たって止まった。老婆の前にけがれのない真っ白なキャンバスができた。我々は老婆が何を書くのか気が気じゃない。もう見ないで帰っちゃってもいいような気がするが、ここまできたら最後まで見届けねばならない。座をピリピリとした緊張感が満たした。

ゴクン

誰かが唾を飲み込む音がした。くどいようだが、興奮したためではない。

老婆はこれまた局部に挟んだ筆で一筆、


           

              

 
 

 と書いた。ミミズが這ったような筆跡だった。帰る道々、誰かが「なんで夢なんだろう?」と言った。誰も答えなかった。

P.S.呼び込みの男は老婆の息子だった。

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