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アニマルコミュニケーター

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 コミュ力ゼロでふだんから人間関係に悩んでいる友達のMは動物にはめっぽう好かれるタイプ。
 夜中、Mがアパートに帰ると、部屋の前で最近餌付けし始めた野良猫のトラが待っていた。
「お腹空いたの?」
いつもならしおらしくニャーニャー鳴くところが何か思い詰めたような顔。ドアを開けても部屋に入ってこようとしない。
「じゃあ、ごはんあげないよ」
ドアを閉めようとすると、後ろを振り返りながら歩き出した。まるでついて来いとでも言うように。外に出るとトラは静まりかえった住宅街を歩き出した。袋小路から私道を抜けてショートカットしたり、人の家の敷地や雑草伸び放題の空き地も通った。そんな調子で猫道を歩いて辿り着いたのは人気のない小さな公園だった。
 公園には野良猫が十匹ほど集まっていた。特にじゃれたり、鳴きあってるわけでもない。ただ互いに感応し合ってるような雰囲気だけがある。
 トラの後から入っていくと、猫たちが一斉に見つめてきた。トラがほかの猫たちの前をぐるりと回ってからMを見た。それで自分が猫たちに紹介されたのだと思った。そうだとして、なぜ自分が呼ばれたのか。猫の集会に人間を呼ぶからにはきっと何か切実な理由があるはずだ。もしかしてトラに頻繁にマタタビをあげていることが伝わっているのかもしれない。「こいつは話が早い人間だ」などと。とすれば、野良猫たちの抱える問題について猫と人間との仲立ちを求められていることも考えられる。たとえば保健所が野良猫を駆除することや、それを防ぐために猫好きの人が無理矢理去勢手術することなんかに対する「猫の主張」を聞き届けるために呼ばれたのではないか、そんなことを考えた。
 猫たちは所在なく立ち尽くしているMを尻目に体を擦りながらすれ違ったり、急にケンカを始めたり、あらぬ所を一心に見つめたりして、特にアプローチしてくるわけではなかった。トラはトラでたまにMをガン見するほかは特に何も訴えてはこなかった。そうこうするうち、猫たちは一匹、また一匹と去って、トラも他の猫について行ってしまった。Mは首を傾げながら家路を辿った。
 翌日以降もトラはMの家にエサをもらいに来たが、二度と集会に誘うことはなかった。Mは話の最後につぶやいた。
「あたし、何で呼ばれたんだろう」

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