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ヅラレスミス

  ある冬の日、電車でうたた寝して目を覚ますと、向かい側で女子高生が寝ていた。駅をいくつか過ぎるうちに女子高生の右隣にツルツルに禿げたサラリーマンが座り、左隣にはツヤのある黒髪のサラリーマンが座った。その絵が対照的でおかしかったのでチラチラ観察していた。二人とも一駅二駅と過ぎるうちに眠ってしまった。
 彼らと同じ列に座っていた人が窓を少し開けた。暖房が効きすぎで暑かったのだろう。窓から入る風に吹かれてサラリーマンの黒髪がそよいだ。
 トンネルに入った途端、風が急に強く吹き込んだ。すると、サラリーマンの黒髪の頭頂部だけが舞い上がり、女のスカートの上に落ちた。一部始終を見ていたこちら側の乗客は笑いをかみ殺すのに必死で体を震わせた。左右どちらも甲乙付けがたい禿頭だった。それでも女は気づかずに寝ている。
 電車が駅に停まってドアが開いた時、女が弾かれたように目を覚まし、駅名を確認すると立ち上がった。ヅラが女の膝から床にふわりと落ちた。こちら側の何人かが持ち主を指さしたが、乗客の出入りが重なって通じなかった。下手に大声を出せば持ち主を起こしてしまう。みんな暗黙の内にそれだけは避けようとしていた。
 発車のメロディが鳴ると、女は指先でヅラを拾い、振り向いて左右の男を見比べた。そして誰に尋ねることもなく右隣のサラリーマンの頭にそっとヅラを載せて電車を降りた。確かに持ち主より似合っていた。
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