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鍋島に気をつけろ

 友達のHが実家で暮らしていた頃、祖母から「鍋島の人間には気をつけろ」とくどいほど忠告されていたという。Hの祖母が鍋島家を嫌うのには理由がある。
 時をさかのぼること400年余。
 H家の先祖と鍋島家とはともに佐賀・龍造寺家に仕えていたのだが、龍造寺家の当主が戦死したのを機に鍋島家は佐賀藩の実質的支配者となり、龍造寺家の後継者が絶えるとその遺領を継承して正式に鍋島藩となった。H家はこの騒動の過程で鍋島に失脚させられ、没落していったという。Hの祖母はそこを踏まえて「鍋島に気をつけろ」と言っていたらしいのだが、Hは老人の繰り言として聞き流していた。
 時は現代。
 Hは二十代半ばを過ぎた頃、ぼちぼち一つの会社で腰を据えて働こうと、それまでの自堕落な生活態度を改め、最低賃金を下回るような悪条件の下、ベンチャー企業で身を削るように働いていた。
 そんなある日のこと、Hは職場で「近々相当なやり手と噂のある人物が新しいプロジェクトリーダーとしてやってくる」という噂を耳にした。
 折しもその頃、Hは連日の激務によって体調を崩し、二日ほど会社を病欠した。会社に行くと、Hの病欠中に噂の新リーダーが着任しており、出社すると即呼び出された。
 ドアを開けて彼の前に行くと、
「君、明日から来なくていいから」
と秒殺。
 呆然としているHの目がリーダーの首から下がった社員証に釘付けになった。姓が鍋島だった。

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