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はからい

 離婚した元妻が自殺して、抜け殻のように暮らしていた頃、心機一転引っ越した。 
 近所を散歩中、住宅を改造したカフェを見つけた。店主のNさんはユニークな人で、住宅街の中なのにピアノのライブを開き、クラフトのワークショップ、キリスト教の勉強会や句会、問題児を抱える親のための自助グループなど様々な企画を立ててはつながりの場としてカフェを提供していた。さらに赤字経営にも関わらず不登校の女の子を雇って社会参加させ、自身でも陶芸を教え、オーガニックのパンやお菓子も作る。一体何がこの人を突き動かしているのだろうと思った。
 何度目かに店に行った時、Nさんはぼくを奥のリビングに招き入れてくれた。そこに足を踏み入れた時、謎は一瞬で解けた。棚の上にご主人らしき人の写真と若い女性の写真、陶器のロザリオが並んで飾ってある。二度結婚し、二人の伴侶に先立たれ、娘さんは自死だという。
「ぼくも別れた元嫁さん自殺だったんだ」
「・・・。ここね、いろんな人が来るでしょ? で、今のあなたみたいにある時いきなり”とんでもない不幸”を語り出すのよ。あたし最近ね、実はみんなそうなんじゃないかって思うの」
「“そう”って?」
「みんな想い出すたびに思わず目をつむるような心の傷を抱えてるんじゃないかって」
「・・・」 
 それから翌週の開店記念パーティーの話になった。
「あなたもいらっしゃいよ」
「いつだっけ?」
「次の土曜日」
「22日?」
「そう」
「10月の?」
「当たり前じゃない。今月なんだから」
「・・・ごめん、せっかくだけど行けないや。その日、元嫁さんの命日だから」
「え・・・」
「何周年?」
「一昨年のオープンだから二周年ね」
「・・・年までぴったり同じ」

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