電波系

おかど違い

※過去記事を転載しているため、季節感など現在に合わないことがあります。

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 人通りの多い吉祥寺駅のロータリー付近で、一人のおばさんが道行く人に何やら訴えている。手には細かい字で埋まったノートの切れ端を持ち、たまにそれを見ては余すところなくメッセージを伝えようと声を振り絞っている。
 湿度90%を超えるうだるような暑さの中を通行人はみな苛立たしげに、ザッ、ザッ、ザッと軍隊の行進のように歩いて行く。たまに歩きながらおばさんの話に耳を傾ける者もいるが、怪訝な表情を浮かべながら通り過ぎていくばかり。
 何しろ最近のひどい暑さにこの湿気だ。非人情だと彼らを責めるわけにもいくまい。他者に無関心な群衆の中でおばさんだけが一人懸命に熱いメッセージを投げかけている。
 何を言っているのかと、ゆっくりおばさんに近づいてみる。

「・・・私の娘がJTBの窓口で働いてるんですが・・・つきあっている相手というのが財力にモノをいわせて・・・人身売買ですよ。これは犯罪です。娘をどこの馬の骨とも知らない輩に売り飛ばそうとしてるんです・・・・」

 人身売買とは真っ昼間から穏やかじゃない。ここでもまた都会の無関心が一つの事件を闇に葬り去ろうとしているのかと暗澹とする。

「警察は事件にならないと動かない」
「初動捜査のミス」
「民事不介入」

などとマスコミが警察の不手際を責める時の決まり文句が頭をかすめる。
おばさんの話は続く。

「・・・聞いてください。これは紛れもなく犯罪なんです。・・・それからこんなこともありました。いきなり娘の後をつけてきて・・・車で拉致したんです。私はこんな男を断じて許すことはできない。そう思って今日ここにやってまいりました。是非みなさんのお力をお借りしたい。その一心でこうして話し続けているのです。・・・そもそもその男と娘のなれそめと申しますのが・・・・」

 おばさんのマシンガントークは止むことがない。
 が、話が本当ならどうして街頭で通行人相手に訴えているのか。通行人に何を期待しているのか?
 おばさんの20メートル先には交番があり、中には手持ちぶさたなお巡りが二人もいるのに。話が本当にせよ、虚言にせよ、不特定多数の他人に漠然と助けを求めるその状況判断のまずさに呆然としてしまう。十中八九おばさんの被害妄想だろう。

都会の人はかしこい。こんな話に耳を傾けてはいけない。

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