カタギの名言集

飛べない鳥はただの鳥

職場からの帰り道、公園の横を通り掛かると妙な光景に出くわした。サムライブルーのユニフォームを着た子どもたち二人(小一ぐらい。以下それぞれサムラ イ、ブルーと呼ぶ)の足元でカラスが這いつくばっている。近寄ってみると、サムライ&ブルーが哀願するような目でおれを見る。

「どしたの?」

「足、ケガしてるみたい」

 サムライがカラスを指さす。

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 カラスは羽根をバタつかせるものの、足で立つことが出来ないので羽ばたけない。自分が飛べ ない理由もわからずに懸命にバサバサやってるカラスがなんとも不憫。でもつい最近カラスに頭を蹴られたばかりで、子どもらほど優しい気持ちにはなれない。

「動物の医者に連れてかないと無理だな。」

 用を足して戻って来ると、サムライがいなくなっている。
 すぐ裏手の都営住宅に走っていくサムライの後ろ姿が見える。

「相棒帰っちゃったの?」

「お母さんに言いに行った」

 出た!伝家の宝刀、「親に言う」。確かに事態は小一のキャパを超えている。ブルーの頭からは今にも煙が出そうだ。
  ブルーは心配そうにカラスを見守っている。近頃の子どもというと、冷たい顔してDSやってるイメージしかないけど、やっぱり子どもってピュアなんだな。瀕 死の動物に心を痛めているのが伝わってくる。まだ目の前で大きな生き物の死を見たことがないのかも。

 おれはブルーの肩に手を置く。

「かわいそうだけどさ、飛べない鳥はただの鳥だよ」

なんかどっかで聞いたふうなセリフだけど、けっこう気の利いたこと言ったつもり。
ブルーは少し固まってから、おれを見上げる。

「・・・じゃあ、飛べる鳥は?」

ムッキー!小一のくせに揚げ足取りやがって!

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すかさずブルーの頭をひっぱたく。天使の輪が三重にかかっている。キューティクルにコーティングされているというより、キューティクルそのものが 生えているような髪の毛。ブルーに恨めし気な視線を浴びせられて困っていると、サムライが足取りも重く戻って来る。

「サムライ、お母さんなんだって?」

「無理!」

親にそう言われたんだと気づくのに少し時間がかかった。子どもは言葉が足りない。台所で夕食の準備に追われてる母親が、サムライの訴えを聞き終わ る前にこんなふうに言ったんだろう。

「無理!カラスの世話なんてできるわけないでしょ!お祭りで買った金魚だってすぐ死なせちゃったくせに。ぜったい無理!」

 子どもたちはカラスがもがいているのを切なそうに見ている。なんとかしてやりたくても獣医に診せるような金はないし、第一、生理的に手でつかむ のも抵抗がある。カラスは見る角度によって黒に見えたり、紫に見えたりする。目にはまだ光を宿している。
 結局、犬の散歩中のおじさんが植え込みの陰の目立たないところに運んでくれて、様子見というかあきらめモードに。明日エサと水でも持ってきてや ろう。

 翌日、仕事帰りにそこを覗いてみると、カラスは少し小さくなって死んでいた。早くも無数の蠅や羽虫がたかっている。サムライ&ブルーはちょっと 離れたところでサッカーをしている。きっとあの子たちもこれを見たんだ。

 そこへ同僚の中でも面倒見がいいことで定評のあるT橋くんがチャリに乗って通りかかった。

「ああ、例のカラスですか、どうなったんです?」

顎でカラスの死体を指す。
いつの間にかブルーが隣に立っている。

「昨日の今日でもう死んじゃったんだよ」

「競走馬も足が折れると、すぐ死んじゃうっていいますからね」

とさわやかな笑顔で鬼のようなことを言って、帰っていくT橋くんの背に石を投げようとしたおれをブルーが止める。

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 今、全然うんちくとか要らない。グスン。

 後から調べたところでは、野生の動物の場合、獣医によってはタダで見てくれたりもするらしいけど、カラスや鳩の負傷は珍しくなく、拒否されるこ ともありありとか。
 でもあんまり野性動物に感情移入しない方がいいのかも。サムライ&ブルーも心ない大人たちの態度からそういう処世術を学んだに違いない。そんな ことに一々心を痛めてたら自殺者が3万人もいる国でサバイブしていけないからね。頑張れ、サムライ&ブルーよ!

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あたし、多重債務者をダマしてるの・・・

 友達の友達のK子は不思議な職場で働いていることが多いという。数年前していた仕事は電話の受け付け嬢だったのだが、普通の会社じゃない。

「具体的に言うと、どういう仕事内容なの?」

「お金が借りたくて借りたくてしょうがない人ばっかり電話してくるの。」

「消費者金融?」

「そんな感じ。電話がかかってくると、まず名前とか個人情報を聞いて、『ちょっと審査させて下さい』て言って適当に待たせるわけ。」

「ふんふん。」

「次に『だいぶ焦げ付いてますよね、○○さん。』て優しく言うの。」

「実際には審査してるの?」

「してない」

「・・・。」

「で、『ウチとしても出来るだけ融資してあげたいんですが、やっぱり信用がないと・・・』って言って、まずはお試しで1万円だけ貸すのね。」

「へぇ、貸しちゃうんだ。」

「うん。で、一週間後に1万3千円にして返してもらうの。信用づくりのための1万3千円ね。」

「で、ちゃんと返済してきたらどうするの?」

「なかなか審査を通らないとかそんなようなことを言って、なるべく何度も1万円を借りてもらうの。あんまりゴネてきたら、出来るだけのことはしたけど無理だった、って言っておしまい。」

「・・・それ、・・・サギだよね?」

「でも、ギャンブル中毒の人とかって結構何度でも借りてくれるんだよね。」

「全然“でも”じゃないし」

 誰かに懺悔して楽になりたかった、という感じでK子は言った。

あたし、多重債務者をダマしてるの・・・」

「わかってんじゃん」

 K子は普通にイイ子なので、そんな仕事とは知らずに応募したらしかった。後日K子の職場は警察の手が入り、ツブれたという。

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5パー引くだけ

 大工であるJの朝は早い。毎朝6時頃には家を出て、帰宅は9時か10時。大工の日当は坪単価で支払われるのだが、ここ数年で3~4割も下がった。原油高で輸入建築資材の値が高騰したり、折からの不景気でとにかく家が売れない。ゼネコンはコスト削減を主に人件費の切り詰めによって進めている。だからとにかく働けるだけ働いて件数をこなさないと稼ぎにならない。
 家には小学校低学年の娘を筆頭に、2歳、6ヶ月と3人の子供がいる。今住んでいるマンションを出て家を買いたい気持ちもあるので、週にたった1日の休日も返上して働くことすらある。酷使し過ぎた腕が腱鞘炎になり、腰もあんまり痛むので接骨院に行ってみたら、
「普通の人、この状態で歩けませんよ」
と言われた。

 そんなわけでJはその日曜日も疲労困憊してぐったりしていた。
 そこへ嫁さんの兄さんから電話がかかってきた。たまたま近くまで来たので寄るという。義兄はガソリンを湯水の如く消費するハマーでCO2をバリバリまき散らしながらやってきた。

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 この義兄、地域のケーブルテレビ会社に長いこと勤めており、今ではかなり偉いポジションにいるという。彼の話によればマルチのような構造で新規加入者から掛かってきた電話を下請けに回すだけで粗利が入る仕事なのだとか。
 義兄はJがいかに苦労して金を稼いでいるか聞いた後でカラカラと笑いながら言った。

「Jちゃん、おれの仕事はね、5パー引くだけ。」

Jは突然目眩がして深い眠りに落ちていった。

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沖縄の掟

 友達の沖縄人Mくんはその日給料日で、これから“模合(もあい)”の集まりがあるのだと言う。 
 沖縄には模合(もあい)という風習がある。一言で言ってしまうと、金銭的相互扶助システム。
 メンバーが定期的に集まって一定の金額を出し合い、その集まったお金を毎回一人ずつ順番に使っていくという仕組みだ。お金を使う人を入札で決めるなど、模合(もあい)ごとにいろいろ取り決めがあるそうだ。本土でいう無尽講、頼母子講(たのもしこう)。

 例えば、ある人たちは毎月給料日になると各々1万円ずつを徴収され、もらう順番はその時急ぎでお金が要る人を合議によって決定し、基本的に一番先に貰った人はまたケツへまわるという感じ。
 同年代のメンバーで行うのが普通で、金額は子供だと数百円から。若者は旅行や引っ越し資金などに使い、お年寄りになると葬儀や入院費に充当されることもある。上流階級の模合では一口数百万なんてこともあるとか・・・。借用書を交わしたりするようなことはなさそうなので、沖縄のように限定的なコミュニティーやメンバー間に絶対的な信頼関係があることを前提にしたシステムなのだろう。

 で、少し模合について話をしたあとで、ふと気になったことを訊いてみた。

 「それさ、大金貰って使うだけ使ったら逃げちゃう人いないの?」

 お人好しで有名なMくんは、沖縄の美ら海を見るような澄んだ瞳で言った。

 「でも、そいつもう島帰ってこれないよね。」

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