みんなの物語

ヤバい割烹

  友達の高校時代の先輩に無鉄砲かつ武闘派で鳴らした先輩がいた。20人に3人でケンカをしかける、波打ち際で人の頭だけ出して砂に埋めてしまう、所持金120円でパスポートも持たずに成田空港に行き、「飛ぶんだァ!」と叫び、職員に羽交い絞めにされる、などと武勇伝には事欠かないヤバい先輩。
 そんな先輩がある晩、高級割烹に忍び込んで鮮魚を盗み食いしていたところ、板前たちに捕まってしまった。全く反省の色のない先輩を前にして板前の一人が通報の手を止めた。かくして先輩は猿轡と縄で拘束された挙句、物置の中に監禁されることになった。それから数日間、その割烹の板前たちのサンドバッグとして殴る蹴るの暴行を受けた。
 先輩が解放された時、片眉と片側の頭髪がきれいに剃り落とされていた。

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密命

 友達の通っていた女子高は1クラス50人で一学年が22クラスの超マンモス校。毎年夏休みが終わるたびに生徒が減り、三年の卒業までに計5クラス分が中退するというステキな学校。
 ある日の朝礼で教頭が言った。
「一組の◯◯さんと担任の◎◎先生が数日前から行方不明になっています。二人の消息をご存知の方は教えて下さい。また、このことはくれぐれも内密に願います。皆さん、何卒ご協力お願いします。」
 生徒たちがざわめいた。
 なんでもその女生徒は担任の若い男性教諭(新婚)にずっと手作りの弁当を差し入れ、大変な熱の入れようだったのだが、ついに駆け落ちしてしまったのだという。
 教頭の捜索指令は、そのまま事態が長引いて事件化することを恐れた学校側の苦渋の決断だった。
 数日後、生徒たちの緊密なネットワークにより彼女は学校に戻ったが、噂は即刻校外に漏れ、おもいっきり事件化したという。

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事務の才能

 友達の職場にビーサンで通勤している筋金入りの粗忽者(40歳)がいるという。
 ある日、上司が彼に10冊分のファイリングを頼んだ。
「タイトルは適当に考えて通し番号振ってくれればいいから」
 彼が「終わりました」と報告した後、キャビネットには「◯◯◯◯(彼の氏名)No.1」から順に「◯◯◯◯(彼の氏名)No.10」というタイトルのファイルが整然と並んでいたそうな。

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お熱い二人

 友達の彼氏は典型的なDV男。外ではにこにこと笑みを絶やさずノーと言えないお人好しだもんで、そうして溜め込んだストレスを彼女にぶつけてしまう。ために彼女はこれまで眼底骨折、腎動脈剥離という大怪我を負っており、腎機能を損ねたせいで激しい運動ができず、今も薬を飲み続けている。
「それでも別れないんだ?」
「一度、奴が浮気した時に別れたんだけど、やっぱりアタシがいいからって」
 浮気の発覚は彼女が彼の部屋で見知らぬブラジャーを見つけたのがきっかけ。彼女は即座に浮気相手を呼び出すと、道路に二人を土下座させて交互に蹴りながらブラジャーを粉々に切り刻んだ。
 それでも怒りは収まらず、デートの現場に二人を連行して綿密な現場検証を開始。ある公園では、ベンチに刻まれた二人のイニシャルを見えなくなるまで紙やすりで削らせた。
「…アンタも相当なもんだね」
 この彼女、車にビニール傘を何本も積んでおいて、雨が降ると他人に分け与えるほどのお人好し。
「そんなのまだかわいいもんだよ。だってアタシ、自分から別れようって切り出したことがあるの」
 命の危険を感じるほどの大げんかで彼女は彼の顔を包丁で切りつけたのだが、彼は彼女をかばって病院に行かなかったため、今でも大きな切り傷が二本残っており、カタギの仕事につけないという。
「『もう別れよう。このままだとアタシいつかあんたを殺しちゃうから』って言ったんだけど、それでもいいからって」
 そのいきさつを聞いた彼女の弟が言った。
「姉ちゃんと付き合えるのはあいつしかいないよ」
 彼女はその時、彼とは一生添い遂げるしかないと決心した。
 二人の一生が人並みの長さであることを祈るしかない。

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1と2と3

 友達の通っていた女子高は1クラス50人で一学年が22クラスの超マンモス校。毎年夏休みが終わるたびに生徒が減り、三年の卒業までに計5クラス分が中退するというステキな学校。中でも校舎の端に隔離された一組から五組までは生粋のヤンキーだけが集められたクラス。
 その選抜クラスで夏休みの迫ったある日、授業の合間の休み時間にそれは始まった。
 突然、ビキニ姿の生徒が教室に飛び込んできて言った。
「これが1ね!」
 声が明るく弾んでいる。一瞬の沈黙の後、教室中が騒然となった。彼女はモデルのように教壇の端まで歩くと出て行った。隣の教室から「これが1ね!」という声が聞こえた。数分後、別のビキニを着た彼女が戻ってきた。
「これが2!」
 同じように歩いてから出て行く。
 数分後、また別なデザインのビキニを着て戻ってきた。
「これが3!」
 他の生徒たちの会話から、彼女がデートに備えて友達に水着を持ち寄らせたのだとわかる。 
「1が良かった人ー」
 何本か手が挙がる。
「2が良かった人ー」
 声のトーンがいくぶん落ちた。
 また何本か手が挙がる。
「3が良かった人ー」
 声のトーンがだいぶ落ちた。
 何本か手が挙がるが、全部合わせても全体の三分の二に満たない。
 授業開始のチャイムが鳴った。
 顔をしかめた彼女がドスの利いた声で言った。
「どれにも手挙げなかったやつー」
 誰も手を挙げない。
「おめえら、ナメてんのか、あ?」
 その時、教師が入ってきた。

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見知らぬ母へ

 5月14日、母の日のこと。友達のM(女の子)が体験した話。

 

 とある田舎から東京に戻ろうと駅に向かう途中で、味のある木造の個人商店を見かけて覗いていくことにした。部屋に飾ろうと買ってきた大きな鉢植えを店先に置かせてもらい、中に入った。

 腰の曲がったお婆さんが奥から出てきた。日用品から駄菓子までなんでもあるようなよろず屋。昔懐かしい駄菓子を見ていたら、どこにしまってあったものか、遠い日の思い出がふつふつと湧き上がってすっかり温かい気持ちになった。

 後ろで戸が開いた。

「あんらぁ~、届いてんでねぇの、見てみぃ」

 振り向くと、店主と同じ歳頃のお婆さんが皺だらけの顔で笑っている。店主の顔にぱっと華が咲いて、嬉しそうに外へ出て行く。

「ほんにまあ、母の日だのなんも言わねぇんだもの。電話一本ぐれぇ寄こすもんだ」

 何だろうと思って外に出て見た。

「男の子だから恥ずかしいんでねぇか」

「まったくいくつになっても」

 二人は鉢植えを見ながらニコニコしている。息子からのプレゼントだと勘違いしているらしい。Mはそんな二人を前にして「自分のです」とも言えず、けっこう値の張ったそれをそのまま置いてきた。そして、その名も「メロンコリー」という駄菓子を買って帰ってきた。

 願わくは真相が明るみに出ませぬよう。

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限りなく黒に近いグレー

 友達のKが自転車同士の事故で転び、脇腹を痛めて病院に行った。そこはマッサージや電流治療に保険が効く整形外科で、近所では行列のできるクリニックとして有名。マッサージをする前に「保険適用のため、診断書には脱臼治療と書きます」と言うブラックな医者。
 レントゲンを撮ると、肋骨にヒビが。
 医師「大人しくして様子を見るしかないですね」
 K「どうせ相手の保険なんで、なんかできることないですか?」
 医師「…患部周りのマッサージぐらいしかできませんけど。ウチはいつ来て頂いてもかまいませんよ」
 「整形外科よ、お主も悪よのう」と思いつつKは数回通院した。
 その日、支払いを済ませて「次回のご予約は?」と訊かれ、「もう今日が最後で。お世話さまでした」と出口に向かう時、後ろから商売人の声を聞いた。
 「ありがとうございました」
 “お大事に”だろ!

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どうでもいいところに降りてきたもの

 

Photo
  その夜、当時付き合っていたみずきと車で多摩近辺を走っていた。外灯も少なく、民家も飲食店もろくに見かけない辺鄙なところだった。
「お腹空いた」とみずきが言った。
 いつの間にかとっくに夕飯時になっていた。
「何食べたい?」
「手作りならなんでもいい。どうせこんなとこに気の利いた店なんかなさそうだし」
 みずきはふだんならオーガニックな食べ物しか食べないタイプで健康には気をつかっている。
「確かに。っていうか、そもそも店自体しばらくなさそうだよ。」
 あたりは墨を流したように真っ暗で、特に山が底なしの黒一色で街中の明かりに慣れた目には新鮮だった。本物の夜に出会ったようで。
 そんな時、その中華料理屋の黄色い雨除けが見えてきたのだった。「注文の多い料理店」を思い出した。
「ここでいいよね」
「うん」
 みずきが道を挟んで店の反対側にある駐車場に乗り入れた。
 ぼくもみずきもふだんならまず入らないタイプの店だ。場末の商店街にある、化学調味料を平気で使うようなどうでもいい中華料理屋だ。
 ぼくらは道を渡ろうとして足を止めた。大型のトラックがろくに減速もせずに通り過ぎて行った。店のガラス戸から漏れる光が舞い上がった砂埃を照らした。
「あぶないなー」
「ほんと」
 誰もが足早に通り過ぎていく、通過点としか見られないような土地。その店はそういう場所にあった。
「こんばんわ」
 ガラス戸を開けると、店の半分が座敷で座卓が三つ、テーブル席も四つほどあり広々としている。
 ぼくらは一番奥の厨房に近い座敷に上がった。
「いらっしゃい」割烹着を着たおばちゃんが水を持ってきた。
 みずきは中華丼を、ぼくはちゃんぽんをたのんだ。
 ぼくらの席の向かいのテーブルとその隣のテーブルに先客が一人ずついて、座敷の反対側の天井近くに置かれたテレビを見ながら食べていた。
 一人は四十近い元ヤンキー風ガテン系、隣は還暦過ぎの元不良(プロレスラーの藤原嘉明に似ている)。藤原と元ヤンはおそらく常連客なのだろう。テーブルこそ違うが、テレビを見ながら気安く話している。話題はトラックの運ちゃんをやって何トンだと幾ら稼げるみたいな話だった。元ヤンの方は話しぶりからすると現役の運ちゃんらしい。
 テレビは健康系クイズ番組のような内容だった。
「何が体にわりぃって、煙草だよなぁ。」藤原が楊枝を使いながら言った。
「煙草が一番だよ、間違いねぇ。」元ヤンは深く頷いた。
 そんなことを言いながら二人の手元にはしっかり火のついたタバコが挟まれている。
 ぼくは彼らを背にしているみずきに目で合図して、振り向かせた。こっちに向き直った時みずきも笑っていた。
 その時、引き戸が開いて一組の家族連れが入ってきた。
「いらっしゃい」
 彼らは一番出入り口に近いテーブル席についた。
 そのうち、藤原は仕事の話を始めた。なんでも今は障害児の養護施設で送迎バスの「運転手補助」をしているらしい。運転手補助というのは、走行中に子供たちが歩き回ったりしないように見張る係なのだという。
「昨日なんか5時間も昼寝しちまってよ」
「5時間は昼寝じゃないでしょ? しかも仕事中に」ぼくは思わずツッコんだ。
「いや、アリなんだよ。送迎バスだから行きと帰りで間が空くんだ。それで駐車場でクーラー掛けてたら寝ちまってよ。これで一日¥11,000もらえるんだから、ラクなもんだよ。」
「いい仕事めっかって良かったじゃんか。今日日なかなかねえよ、そんなラクな仕事は」
「ああ。初めてこの仕事に就いた時なんてよ、子供一人下ろし忘れちまってよ、一日でクビだよ。」
「えっ、気づかなかったの?」とぼく。
「シートの上で横になって寝てやがったんだな。だから見えなかったんだよ。なんせあいつらみんな同じ顔してっからよぉ。」
 同じ顔とは何を言ってるのかと思ったら、ダウン症のことを言ってるようだ。
 ぼくは苦笑した。「じゃあ仕方ないね」
 おかみさんが手を拭きながら厨房から出てきた。
「何言ってんのよ。本当はこの人が乗り降りのたびに人数を数えて間違いがないようにしておかなきゃいけないのよ、そういうのが仕事なんだから。でも、障害のある子は普通の子と違って次何するかわからないから、見張りも楽じゃないわよね」
「なるほど、見張り失格だ。じゃあ、今は別の施設でやってるの?」
「変わんねえよ」
「? だって一日でクビって・・・」
「いや、府中(のコース)に飛ばされたんだ」
  ぼくは後から入ってきた家族連れの方に目をやった。彼らも藤原の話に耳を傾けているようで言葉少なに食べながらも顔は笑っている。
 ぼくとみずきはちゃんぽんと中華丼を交換して少し食べた。
「ふつう、だね」
「ほんとだ、ふつう」
 別に味はどうでもよかった。これで特別うまかったり、死ぬほどまずかったりしたらびっくりしてしまう。安心して食べられる方がいい。ぼくらは食事そっちのけで藤原たちの会話を食べていた。それはなかなかコクがあって今まで食べたことのない味がした。
「最近は仕事どうなのよ? 飛ばされてからはちゃんとやってんの?」と元ヤンが訊いた。「おう。こないだよ、口の利けないのがいてよ、あれなんて言うんだ? そういう人のこと」
「聾唖? 」とぼく。
「それだよ」
「その聾唖の子がな、道の悪いとこを通ってバスがバウンドするたびに決まった手の形をするんだ。手話なんだよ。おらぁ、手話なんかわかんねえからよ、職員の奴にあれ、どういう意味だって訊いたんだ。そしたら『楽しい』って意味なんだと。何度も何度もバスが跳ねると『楽しい!』ってやるんだ。」
 藤原はその時の光景を思い出しながら話しているのだろう。もともと細い目が糸のようになっている。
「へえ、そりゃ、かわいいな」と元ヤン。
 みずきもぼくの隣に来て客席から藤原の話を聞いてるような感じになった。
「こりゃ、おもしれえと思ってよ。その職員に簡単な挨拶の形を教えてもらったんだ。で、次の日の朝、その子がバスに乗ってきた時に『おはよう!』ってやったら、もう喜んでよ。今じゃ、その子の両親がおれを『先生』なんて呼ぶんだ。なんだかくすぐったくってよ」
 ぼくらは嬉しそうな藤原を見ながら笑った。
 その後も組長は仕事中のエピソードを面白おかしく話してくれた。脚色なしで話しているのだが、彼の話しぶりがおかしいのと、日頃の生活態度がどうしても小市民の枠に収まりきらないために毎回オチのある漫談になってしまうのだった。
 藤原によると、「こういう施設の臨時職員がすぐ配置換えになるのは、子供たちの母親とデキちまうからだ。おれは見たんだ。」という。
 見た目はいかついが、どうにも愛すべき人なのである。
 元ヤンが「ごっそうさん」と言って楊枝をくわえながら勘定を済ませると、藤原も後を追うように出ていった。
「ぼちぼち行こうか?」
 立ち上がろうとした時、家族連れが揃ってレジの方に向かった。ぼくらは浮かしかけた腰を下ろした。父親が財布を出しながら言った。
「近所に引っ越してきた○○といいます。よろしくお願いします。」
「あら、そう。こちらこそよろしくお願いします。」とおかみさん。
 父親は息子の手を引いておかみさんに顔が見える位置に連れてきた。
「あのいきなりなんですが、うちの息子は生まれつき言語障害でろくに喋れないんです。共働きなので夕食を子供たちだけで食べに来させてもいいでしょうか?名前はアトムです。妹はウランです。」
 ぼくとみずきは顔を見合わせた。
「ああ、そうなんですか?ウチはかまいませんよ、いつでも。」
 ぼくはさっき藤原と話していたおかみさんが「障害者は普通の子と違って次に何するかわからないから大変よ」と言っていたのを思い出した。
 ともかく一家は支払いを済ませると勘定を待っていたぼくらに軽く会釈して出ていった。
 レジで勘定を済ませる時、おかみさんに訊いた。
「さっきの常連さん、面白い人ですね。」
「今でこそあんなだけど、昔はひどかったのよ。」
 奥の方で食器を洗っていたおっちゃんが出てきて言った。
「もう三十年来の付き合いでね。若いころは足が三本も入るようなズボンを履いてて、嫌な客が来たな、と思ったけど、随分変わったよ。今じゃあ、孫を可愛がってすっかりいい爺さんだ。昔を知ってるからねえ・・・」
「あの人大きなダンプに乗ってたんだけど、このすぐ近くの道で急に飛び出してきた4歳の子を轢いちゃったのよ。タイヤの下敷きになって本当にぺったんこになっちゃったのよ」
「え」ぼくらは一瞬絶句した。そんなに生々しく説明しなくていいんだよ。「じゃあ、刑務所に?」
「でも、あれであの人は昔から硬派でね、いつも運転だけは真面目にしてたのよ。で、その現場で見てた人が『この人はちゃんと運転してた。どう見てもブレーキが間に合うタイミングじゃなかった』って証言してくれたの。」
「へえー。人に歴史ありだ」 
      ◇
 店を出たら、みずきが言った。 
「なんか降りてきてたね」
「あ、そうだったんだ。」みずきはぼくと違ってそういう感受性の鋭いタイプだ。「でも、なんか変な奴だったね」

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常習犯は語る

 車を発進させると、フロントガラスを茶色い液体が流れて、スッカラカーンと空き缶の転がる音がした。ぼくはいつものようにため息をついて車を停め、ダッシュボードから専用の雑巾を出してフロントガラスを拭き、道に転がったコーヒーの缶を拾った。いくら両手がふさがっているからといって、ドアを開けるとき飲み物を車の上に置くのはお勧めできない。

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軟派救命士の災難

 ある夏のこと、仕事で熊本に出張した。その日は移動日でまだ夕方だった。今からホテルに行ってもヒマだなと思っていたらレンタカーのカウンターにかわいい子が。ふだんはナンパなんてしないのになぜか声をかけている自分がいた。
「何時に終わるの? ちょっと観光に付き合ってくれない?」
すると、
「もう終わるけど、制服着替えたいから一旦ウチまで来てくれる?」
とすんなりOK。
 ぼくはワン!と一鳴きして彼女の車に乗り込んだ。着いた先は郊外の公営住宅。「散らかってるけど」と彼女がドアを開けると、わーわー歓声が上がり、三人のちびっ子たちが駆け出して来た。目が点になった。
 離婚して生活保護を受けながら育てているという。それならそれで楽しもうと、スーパーに買い出しに行ってカレーを作ってあげた。食べ終わってから遊んでいると一人だけ全然喋らない子がいる。
「この子どうしたの?」
「風邪ひいてるの」
額に手を当てるとすごい熱。
「病院連れて行こう。幼児の高熱は危ないよ」
「お金がないの」
「おれ出すから」
 救急病院の待合い室は行列ができていた。何時間も待って診察を受けると、医師から父親だと誤解され、「なんでもっと早く連れてこなかったんだ!」と怒られた。ホテルに着いたのは深夜3時。
 翌日仕事を終えてから彼女の家に寄り、シャワーを借りて普段着に着替えた。
 帰宅すると、熊本弁でキレキレのメールが届いた。
「人の女に何ばしよっと?・・・(罵詈雑言)」
 別れた元旦那からだった。濡れ衣だと伝えたが、ならばなぜズボンを脱ぐ必要があるのかと返信。・・・ズボンを脱衣場に忘れてた。着払いでいいから送ってと女にメールしたが、送ってくれなかった。

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